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2015年7月9日木曜日

第一期の展評を尺戸智佳子さん(黒部市美術館)にお送りいただきました

「太閤山ビエンナーレ2015-富山の美術家たちの今」 第1期を見終えて

尺戸智佳子

 「富山県に在住する作家たちが世代を超え、流行に左右されることなく次代を切り開くことを目指して今年も集まりました。平面から、立体、インスタレーションに至るまで分野は問わず、ベテラン・中堅作家から若手までの広い世代が互いに刺激し合い、切磋琢磨する場、総勢約50名の作家みずからが主導して立ち上げ推進する「手作り」の展覧会です。富山の美術家たちの「今」をどうぞごらん下さい。」(太閤山ビエンナーレ2015「ごあいさつ」より)

 「流行に左右されることなく次代を切り開く」という一文に、地方で制作する作家たちの葛藤と決意を強く感じた。それは突き詰めてみるとどのような事だろうか。
 
 メイン会場はふるさとギャラリーで、ここには主に平面作品とインスタレーションが設置されている。本郷仁の《Captive Gaze ~between the moons~》は円形の枠に三角形の鏡がレリーフのように組み合わされた2対の立体が吊られてゆっくり回転している。鑑賞者の身体が所々に映るので、まるで切り取られたように身体の一部がクローズアップされる。玉分昭光の銅版画は、「ナリタチ」や「縁」のようにテーマが普遍的であった。古事記のような神話性や洞窟の壁画のような懐かしさが感じられ、細部をじっくり鑑賞することも楽しかった。アートNPO工房COCOPELLIに所属するアールブリュット・アーティスト末永征士の作品は他と一線を画す鮮やかさと開放感のある作品であった。
 屋外展示の作家は、公園内の好きな場所に作品を設置できるようで、その設置場所を探すところから制作がスタートするという。設置場所等に関して会場側との合意が必要だろうし、破損のリスクも高い中で作家の負担も大きいと聞く。美術館主催ではためらいがちであるが、作家主体の展覧会だからこそ思い切った場所に展示できる。くごうあいは、船の形の作品《Color Spectrum Ships~光・水・紋~》が気持ちよく佇むことのできる木漏れ日のきれいな小川を選んだ。会場の空間を意識したサイトスペシフィックな作品だ。ニュートラルプロダクション《beeping space》は射水館という休憩所にサウンドインスタレーションを設置した。ビーっという「音」についてのミニマルな作品であろうか。作家の言葉によると様々な「対」の境界を示す音のようだ。広い敷地内を散策する夏の展覧会、自販機のアイスクリームを食べながらベンチに腰をかけ音に耳を傾けた。後に、彼らの作品はかなり深いメッセージが含まれていたためアーティストトークを聞くと楽しかったと知った。ほぼ毎週末アーティストトークも頻繁に行っている。鑑賞者の立場としては作家の感性を共有できることはとても興味深く嬉しい。
 次に、太閤山荘という古民家の庭に一歩踏み入れると、曽根朗のサウンドインスタレーション《思い出せない些細なこと》ピンクノイズという信号とマリンバの音楽が流れる。ピンクノイズと太閤山荘が在る環境とのミスマッチは意図的なものであるようで、逆説的に世界の豊かさを感じさせる狙いがある。2階である屋根裏に展示された三隅摩里子の作品は、丸く切った段ボールのようなものを幾層にも重ねたインスタレーション《在る記憶》である。木造の屋根裏の美しい空間と歳月のなかに佇んでおり、庭から漏れ聴こえるノイズや音楽までもがその空間に取り込まれていた。

 今年の太閤山ビエンナーレは第1期から第3期にかけて出品作家が入れ替わる。第1期の出展者は22名と1組、作品展数は1度で鑑賞するのにはちょうどよい点数であった。しかし総勢約50名が一堂に会した量感もすばらしかっただろうとも思う。また太閤山ランドは、たまたま遊びに来る近隣の親子等が突然作品と出会うことが多い会場である。作品全てにおいて作家の言葉が添えられていたり、作家の小作品がプレゼントされるコーナーが設けられていた。先にふれたアーティストトークもあり、彼らが鑑賞者とどのように対話をするかということに対して開かれた意思が感じられた。
 作品について印象的であったことは、時代や社会への関心というよりは、宇宙的なもの、内向的なもの、自然や時の流れへの関心を示す作品が多かったように思われた。決して一概にできるものではないけれど、富山の豊かな自然に囲まれた環境で制作していることで何か影響することがあるのだろうか。そのような事を考えながら第2期、第3期を楽しみにしたい。

 「流行に左右されることなく次代を切り開く」とは、富山という地域で自身の表現をつきつめ若い世代を育てることなのだろうか。むしろ、その後に続く「切磋琢磨する場」という言葉が示すように、太閤山ビエンナーレという場で各々が自身の高みをめざす。地域おこしでもなければ、大規模国際展のようなテーマに沿ったグループ展でもない。太閤山ビエンナーレは富山の作家たちが各々をキュレーションしながら自身の表現を切り開いていこうとする芸術運動であるのかもしれない。


 (しゃくどちかこ 黒部市美術館)


本郷仁《Captive Gaze ~between the moons~》



くごうあい《Color Spectrum Ships~光・水・紋~》


三隅摩里子《在る記憶》


末永征士《ハナデストハッパ》


玉分昭光《縁‐さよならの舞‐》

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